The mestia to ushguli hike 5

次の日、のびのびとした快晴の朝だった。朝食まで時間がありそうなのでカメラを手にし周囲を散歩をする。ここの村も、もう今は使われていないような家や塔がいくつもある。こんな賑わいはきっと短い夏のひとときで、厳しく静かな暮らしなのだろう。山での暮らしは光も風も、全然違う。けれど美しさだけでは住み続けらず、この地を離れた人々の暮らしの気配だけが今も残っていた。

朝食を終えて出発した最終日。今日の道のりはそこまで長くなさそう。けれど流石に4日目になると足が堪えていた。足が痛いと思うように歩けない。こんなに歩いて来たんだもんなぁと、自分の願いについて来てくれる身体を愛おしく思う。休み休み、歩く。木漏れ日が綺麗。途中、清流が流れているところに出たので、岩に腰を下ろした。

山道の先、とうとう車道に出た。ウシュグリ村まで車で行く人々はその道を使う。なるべく整備されていない道を歩きたくて、道路を歩くのをやめて野の斜面を歩く。なだらかな緑の斜面と、奥の空を眺めながら。遠くに、復讐の塔がいくつも並ぶ集落が見え「あぁ着いた…」と、一人呟いたことを今でも鮮やかに覚えている。

道の果てに着いたウシュグリ村は夕暮れ時、金色の光に包まれる。5000mを超えるシュハラ山を目の前に、丘に座り込んで風に吹かれ、ここまでの長い、長い道を一人、祝福した。

外のテラスで、夕食。ジョージア料理の肉団子のスープ・オーストリや豆のペースト?やクスクスのサラダ、トマトとキュウリのサラダにはパクチーとスバネティソルト。ガーリックや様々なスパイスを混ぜたスバネティソルト。ウシュグリ村は4つの小さな集落で構成されている。その中でも一番手前の村は、少し寂れた印象だった。その村の前を通った時に、おばあさんに呼びかけられ、どうか?とお勧めされたのはこのスバネティソルトだったんだなと後から知った。あの時は分からずに断ってしまったが、断った後のあのお婆さんの落胆するような表情がしばらく目の裏にこべりついていた。あの時、買ってあげたら良かったな。サラダにかかったソルトを見ながらそう思った。

夜になると、寒い。その日は夕食を食べた後、広い部屋で暖かな毛布に包まれてすぐに眠りに落ちてしまった。

夜も深くなった頃、目を覚ますと頭の上にある窓の外には星が瞬いている。時計を見ると三時過ぎだった。疲れていたはずなのに、その星を見ると、もう、いてもたってもいられない。ダウンを着て、スカーフを首に巻き、外へ出た。夜中になっても周囲はゲストハウスの蛍光灯が煌々としていて、もっと暗い場所へもうちょっと、もうちょっとと歩んでいると、結局教会のある丘の上まで来てしまった。風の吹く、真っ暗な丘の上。空気の澄んだ夜だったから、天の川が頭上を流れているのを確かに見ることができた。

生涯、こんなに星降る夜があったかな。目を凝らしても、凝らして見えてくる星に目が回る。こんな星に自分が今、息しているということが益々、分からなくなった。不思議な星。次第に空が薄ら白み、星たちが消えてゆくと、シュハラ山の黒い影と白い峰々が浮き上がってきた。朝が来る。山から降りてくる冷たい北風に冷えた身体を摩りながら、ゲストハウスの門を音を立てぬようにと静かに開けて、毛布に包まり、再び眠りに落ちていった。