アルメニア・エレバンはジョージア・トビリシからたったの5時間半弱。それなのに、この国ではジョージアとは全く違うことばかりだった。まず、太陽の光が断然強い。サングラスがないと、白く強い光に目が焼けてしまう。眩しくてレンズを構えるのも大変だった。それに、ジョージアがヨーロッパやカナダのような山岳地帯特有の無骨なデザインであれば、アルメニアはもっとペルシャ的でアジア感のあるデザイン。街には柘榴模様と国のシンボル・アララト山とアラガツ山が溢れる。
ここアルメニアはアララトの民(ノアの方舟の伝説に出てくるアララト山)と呼ばれ、世界最古のキリスト布教国。そのアララト山は現在トルコ領にあり、お隣トルコとも、アゼルバイジャンとも、揉めている。大陸の歴史を知ると地続きで生きることの難しさ、それによるアイデンティティの強固さを肌身で感じる。

エレバンで過ごしていたゲストハウスの、家の中の光が本当に美しく変化するので、リビングにばかりいたような気がする。砂漠気候のようなエレバン、朝晩は冷たい空気、日中も家の中は涼しくて風も心地いい。夕方が長く、香ばしい黄昏色が部屋のカーテンをゆらゆらと揺らすのを眺めながら、キッチンで適当に夜ご飯を作り、ビールを飲みながら写真を編集したりして過ごした。


ある夜の支度。静かで、鳥の鳴き声がして、心地よかった。

初めて飲む柘榴ワインは甘くて甘くて、食前酒なのか?食事とは合わせられず甘いお酒が苦手な私には向いてなかった。結局凍らしてワインシャーベットみたいに食べたらとても美味しかった。八百屋さんでゲットしたオバケ茄子、真っ赤なトマトと初めて見た赤い麦?キャベツを切りながら何を作ろうか考えてる。


マーケット帰り、つぶれ桃(日本では見ないけど本当に大好き)を見つけてとてもご機嫌。平たくて硬いクラッカーのようなものにはアニスが効いていてなかなか日本では出会えない癖のある味が面白い。アルメニアのチュルチュヘラはジョージアのよりも大きくて、胡桃がこれでもかってくらいにふんだんに入って、甘さも強い。ジョージアのチュルチュヘラのグミっぽさが好きだったけれど、これはこれで贅沢な気分。スーパーでお惣菜を買ったり、買ってきた野菜をハーブを適当に混ぜてサラダを作ったり、私にとって旅はこんなふうに土地のものに触れられることが楽しい。
と、観光したいわけでもなかったのでこんなふうに買い物や食事をしに街を当て所もなく歩いたり、バスに乗って街を眺めたりした。

アルメニアとアゼルバイジャンとの問題で孤立する独自自治区ナゴルノ・カラバフ共和国の郷土料理であるジェンガロブ・ハツ、それだけのメニューの食堂へ。ハーブとスパイスを炒めてラバシュ(トルティーヤのような小麦の皮)で巻いただけのシンプルな食べ物。従来は貧しい土地ならではの食事なのかもしれないけれど、めちゃくちゃ美味しい…もちもちの皮を噛むとふんだんにハーブとスパイスの香りがする、あぁ、思い出すだけでまたあのジェンガロブ・ハツを食べたくなっている。


内装はペール調のピンクの壁に白いモールディングがロシア文化を感じつつも、アルメニアのデザインは圧倒的にペルシャ感。エキゾチック。


エレバン郊外に、パン屋さん。と、言っても品揃えはラバシュとマトナカッシュ(マト/指で模様をつけたパン)。ジョージアではどこに行っても見かけたプリともまた違う。マトナカッシュを買って、写真を撮ってもいい?とお願いすると、素敵な笑顔を向けてくれたこの写真たちを今見返しているとなんだか泣けてくる。夏の、光線のような白くて強い日差しの下、パン屋さんの日陰に入ると途端にひんやりと、強いコントラスト。乾燥した空気となんの飾り気もない簡素な建物のなかで、女性たちが小麦まみれになりながらラバシュを作る姿がとても美しく、胸がいっぱいになったことを思い出している。

アルメニアの日常をのぞいてみると、どこも清潔で、整理整頓されている。キチりと並べる文化は社会主義の名残なのだろうかと思った。スーパーも、街角の八百屋さんも、マーケットも、綺麗に並んだ空間にはどこか日本を感じた。



ナッツとドライフルーツを盛り合わせたお皿は鮮やかで眩しい。でもエレバンのマーケットは観光客要素もあるのか?随分空いていて、街の中にある八百屋さんの方が庶民の生活に馴染んでいた。私もよく野菜を買ったり、桃やリンゴをおやつに買って食べた。


でもマーケットはやっぱり楽しい。アルメニアもジョージア同様にスパイスとハーブがふんだんで、取ってもガストロノミーな国だった。


鉱物のような砂糖の結晶、これをお茶に入れるそう。丸い円盤のものはアルメニアの郷土菓子・ガタ。小麦とバターと卵のシンプルでずっしり重たいパイ。クリスマスなどの行事には家族で揃って食べるアルメニア人にとっての故郷の味。


ジョージアは写真がNGな文化だった。人のいるところで、特に庶民の暮らしの場でカメラを構えるのは難しくて、収めた写真のほとんどはコミュニケーションを取った後の瞬間だ。もちろんアルメニアでもレンズを構える前には声をかけていたけれど、ジョージアとは違って向こうからフォトフォト〜!!とピースしてくれたり、随分陽気でラテンな印象。おかげでマーケットに並ぶ宝石みたいなおやつや野菜たちを収めることができて、嬉しかった。


エレバンのスーパーマーケット。本当に驚いたのはチョコレートも飴もクッキーも、お米も豆もスパイスもパスタも何から何まで量り売りで買えるってこと。陳列好きには堪らず、やっぱり何度も何度もスーパーに足を運んでしまう。


アルメニアの多くパッケージはカラーの限られたデザインが昭和レトロ?を感じて、昨今の過剰に情報を詰め込んだ超ハイブリットデザインに見慣れた私からするとこういった質素なデザインに惹かれてやまな(容器の脆さとか、蓋の閉まりとか、機能デザインは置いておいて)かった。今後もパッケージそのものを全て無くすのはないと思うけれど、カラーを減らす必要はあるんだろうなと、思う。ある意味このままいけば最先端なのでは?と思うけど、そういうわけにはいかないだろうな。ただ日本人として、そのことがすごく大きな気づきだったようにも思う、少なくても、充分に素敵にやっていけるってことを思い出した。

