The mestia to ushguli hike 6

朝、庭のテラスで朝食だった。朝から沢山の皿が置かれている。出来立ての小さなハチャプリ、手作りのマーブルケーキは素朴な味。海外のお菓子やケーキは私には甘すぎるのに、家庭の味は優しい。皆これくらいの味付けが好きなんだと、驚く。家庭に入ってみると、その国の本来の姿が見える。

朝食を終え、カメラを抱え村を歩いてみることにした。風の通る谷、山間に在る暮らしというものに惹かれているのはなぜだろう。山間の、街の丘の上ににひっそりと在る教会の美しさになぜこうも、惹かれてしまうんだろう。その世界の触れたさに、こんな遠くまでわざわざやって来てしまった。でも、そのことが何一つ間違っていなかったと感じる。

ウシュグリ村のひとときの夏は、観光客ばかり。私もその一人。日帰りのツアーで車で訪れる人々も多く、山奥の村で過ごすのには似合わない都会の格好で、復讐の塔の聳える丘を登るのを眺める。山には切り立つようにコンクリートの壁を建設中、1000年以上の歴史を持つ石の塔の風情には、不調和。でもここは人の暮らす村で、美しさが壊されると嘆くのは外の人間ばかりなのかもしれない。私たちはこの村の冬の寒さや寂しさを知る由もない。この村にもスーパーマーケットができ、大規模なリゾートが建つのもそう遠い未来ではないのかもしれない。世界が駆け足で駆け抜けてゆく今、素朴さを求める方が難しい。良いものも無くなってしまうということがあるから、今をちゃんと、噛み締める。

夕方、黄金色の丘の上で馬が草を喰んでいるその気配が、長閑で、吸い寄せられるようにしばらくカメラを構えさせてもらった。真っ白な毛並みの馬がいる。綺麗だなと思い、見つめていると、逆光で光さす姿を捉えた瞬間に、こちらへ一歩二歩三歩と、歩み寄って来た。目の前でじっと、目が合う。その穏やかな黒い瞳に吸い込まれて行くのがわかる。白い馬はゆっくりと、私の鼻に鼻を寄せた。その、たった五秒ほどの瞬間の中に何か、奇跡みたいな時間があった。

農場のおじさんはその五秒を見て、ジョージア語で何かを言っている。きっと「ブラボー、ブラボー」そんな調子で。咄嗟に顔を拭い、笑い返したが涙が出てきた。不思議な気持ちで、村と、その先につづく金のベロアのような山々に、太陽が堕ちてゆくのを眺めていた。