ジョージアの首都トビリシでの滞在でしていたことといえば、大体は写真を編集し、街の歴史を調べ、文字を書き、気が向いたら教会へ足を運ぶ。帰ってきてシャワーを浴びてまた文字を書き、ビールを飲みながらスーパーやパン屋、八百屋さんで買った食材で料理していたら一日なんてもう、おしまい。旅先にいても、結局ツアーには一度も参加していない。人々の暮らしに目線に合わせ、その土地の解像度を上げてゆくことが私の喜びだった。
暮らしと旅の間の、どっちともつかない曖昧な立場だから持てる眼差しがあるはずだ。暮らしてる人には当たり前で、旅人には忙しくて、見えていないようなことのなかの光。
トビリシは薔薇の街だった。大きな薔薇の花束を抱え、教会に祈りに来る人や、バラを手にした彼女と手を繋ぐ彼や、道ゆく私を呼び止め一本の薔薇をくれたおじさん。
トビリシはロシア帝国時代の古い建物が残る街。結構風化も激しいけれど、彫刻された重厚感のある建物を眺めているだけでも楽しい。
随分整備された綺麗な街だけれど、一本裏道に入ると緩やかな日常が垣間見れたりする。ジョージアの挨拶は”ガマルジョバ”、ありがとうは”マドロヴァ”。この頃にはすっかり慣れてきて、バスに乗る時、お店に入る時、マーケットで受け取る時、その一言、添えるだけでも、異文化が身体の一部になったような不思議な気持ちになる。
限りなくヨーロッパの気配が漂う街だけれど、EUに加盟していないジョージア。日本のような島国には分からない、強固なナショナリズムを築かせる隣国同士の緊張感を、この旅で幾度となく知ることになった。
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