Cappadocia 3 ウチヒサール城

朝、昨日の疲れが残っていたけれど目を覚まし、外のテラスに出た。乾燥地帯の夏の朝、冷えた空気は冬のように透明で、澄み渡っている。今日は気球が飛ばなかった。気球は風に弱く、夕方から強い風の吹くカッパドキアでは飛ばない日も多い。気球のない朝は、カッパドキアの大地がよりくっきりと鮮明で、こんなころで一人、朝を迎えていることの不思議さにしばらく浸っていた。でも暫くすると体が冷え、再びベッドに戻った。少しだけ眠り、今日は朝食のあるホテルにステイしていたので、わくわくしながら食堂に向かう。

(L)朝食にわくわく (R)私のお皿のオレンジと、おばさんの青いシャツ

トルコの朝食は本当に美しい。チーズの白、お野菜の赤や緑、ハムのピンクに、ジュースのオレンジ、オリーブの黒、パンの茶色、朝から、そんなカラフルな景色にパッと目が醒める。たっぷりのお野菜やシミット(トルコのゴマパン)にチーズや蜂蜜を乗せて食べ、濃いコーヒーを飲んだら俄然、力が湧いてきた。

(L)朝食にわくわく (R)毎日眩しいほどの太陽の光を浴びているので、お野菜沢山でとても嬉しい、ビタミン!

昨日は一日よく歩いたし、今日はどうしようかと思ったけれど、やっぱり歩きたくなってきた!よしよし、それならば昨日向かったチャウシン村とは反対のウチヒサール城まで歩いて向かうことに。車だとたったの数分なんだけど、歩くと90分くらい。Family of year を流しながら荒野の道を歩くと、まるで映画の世界に入り込んでしまった気になる。

結局、写真を撮ったりで結構時間がかかり、ウチヒサール城に着くまでに随分と暑さでへばっていた。目的地の手前、ビュースポットのようなところがあり、休憩。ちょうど祈りの時刻だったようで、カッパドキアの白い巌窟の荒野に、アザーンが響き渡る。

初めは、どこか耳慣れずにいたアザーンも、この頃にはどこか懐かしいような、心鎮まる音となっていた。目を閉じ、岩を滑る風音と、アザーンの祈りに耳を傾ける。

(L)中央アナトリア最高峰のエルジェス山。この地を司るような堂々とした、風格のある山。アザーンの祈りと風の音だけ。

目を閉じ、耳を傾け座っていた隣の席で、ヨーロッパ系のカップルがバーナーで昼食の支度をしている。こんなところで作る昼食は、何よりも贅沢な気分にだろうなぁ。カッパドキアにはキャンピングカーでバン泊しているキャンパーやハイカーが沢山。日本ではカッパドキア=気球の認知だと思うけれど、実際には大荒野の中で周囲の自然は開かれ、あらゆるハイキングロードや絶景スポットのあるカッパドキア。キャンパーやハイカーの聖地のよう。岩の台座の一等地に、ぽつりと留まるバンで、夕日を眺め次第に星降る夜に移ろう様は一体、どんな世界だろう……もともとバン生活って憧れがあったけれど、カッパドキアに来てとても羨ましくなった…あんなに風に自然と一体化できるなんて、優雅だと思う。などと、色々なことを思い描いてはわくわくしていた。

木陰で、風に吹かれ、すっかり暑さも落ち着いたので、ウチヒサール城まで。道の先、坂の上に聳えるウチヒサール城はどう見てもナウシカの世界観で、目頭が熱くなった。まっさらな空を、白い鳩が舞っている。その周囲にも、岩に溶け込み小さなホテルが並んでいる。乳白色の石灰岩に、銀色がかった薄い色の木を使用した建物群は、有機的だがシンプルで、品を感じるデザインに刺激された。壁を這う蔦の先にはまだ青い葡萄が連なっているのも、可愛い。

ウチヒサールの小さな町(と言ってもほとんどホテルと飲食店のよう)はカッパドキア周囲でも一番高い丘。その上に聳え立つウチヒサール城は随分離れた場所からもその存在感に目を奪われる、自然の要塞。4世紀以降、人が住み始め、数十年前まで人の住んでいた住居だったそう…長い長い、人の生活を見守った岩の記憶の果てしなさに、感じたことのない感情に出会う。

こんなに長い時間を今まで、生きていて、体感したことなどなかった。信じられないほどの人が生まれては死んで、その繋がりの果てに今この世界があって、自分が生きていること。たった一人の人間は、塵ほどの。時代や運命に翻弄されながら、でもその中には沢山の喜びと悲しみが詰まっていたんだろう。そういう無数の個の時が、生まれては消えてゆく先に、自分が在るという状態もまた一刻、一刻と移ろう。この美しい景色を織りなす自然と、人との果てしない時間に触れれば、こんな地球に生まれ、今生きているというそのことだけで、もう生きるに値する世界だと思う。

暑さと、気持ちを鎮めるため、カフェに入りレモンソーダを飲みながら写真を見返していたら、ずいぶんと陽の光も柔らかくなっていった。帰りはカメラをザックに収め、まっすぐに帰る。夕暮れの光が木々の間を揺らす。大きなさくらんぼのなる木があったので、おやつにいくつかいただいた。タオルで擦り、口に入れたさくらんぼが甘くて、嬉しい。そのまままた、まっすぐに歩いて帰った。

ゲストハウスでシャワーを浴び、テラスでビールを飲んだ。長い一日が暮れてゆく。明日は気球、飛ぶといいけれど。

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