Buscalanへの旅 2日目

横で鳴かれているのかと思うほど近くで鶏の大きな鳴き声で眠りの世界から引き戻される朝方、あれは一体何時だったんだろう。まだ暗かったことは記憶している。昨晩の夜、落ち着ける雨音に誘われ、深い深い眠りのなかからぐいんっと引き上げられたような気分だった。まだ、眠い…しばらくして5:00前ごろ、布団から出る。

次第に明るんでくる空に誘われ、棚田に出るときらきら光る足元。金色の朝だった。

世界は広いなと、思った。

自分が生きている大地の、同一平面上にある朝。

こんな地球に生まれ、生きているそれだけで、生きるに値する。

6:00過ぎに、約束通りトゥマさんが来てブスカランコーヒーを入れてくれる。やっぱり、美味しい。そこから会場へ。昨晩、寒い中遅くまでやっていたアポワンさんの姿を見ていたので、本当にこんな朝早くから開始するなんて可能なのかと心配しつつ、村のタトゥー会場に向かう。すると、前から、肩からポンチョのような布を纏い、赤いビーズのピアスを光らせる老女が歩いてくる。太陽を浴び、乾燥に耐え抜いた肌はなぜかきめ細やかな艶があり、目が離せない。目の奥が白い、どこかを捉える眼差しには、威風が漂う。

「あの人、スネークスキンを持っている」初めて見るその姿に、どきどきした…

タトゥーは消せない。人から「隠せ」と言われる時代も、「美しい」と言われる時代も、この肌と生きてきたんだな。

このかっこいい女性に、トゥマさんがお母さんだ!という! 驚いた!笑 一緒に撮っていい?と聞くと、朝から最高の笑顔を向けてくれた。

この日は朝7:30ごろ、無事アポワンさんが現れ、前日の疲れを感じさせない爽やかな姿で黙々と、タトゥーを彫っていた。これが彼女の日常なんだな、と、その力強さにどきどきしながら、私の番。目の前にすると強さよりも小柄でチャーミングな雰囲気が伝わる。はるばるここにやって来た、その喜びが伝わるよう、じっと眼を合わせた。左手首の内側に、お願いする。何度も何度も同じ点に棘を刺すので、ズキズキとやっぱりとても痛かった….

背術を終え、アポワンさんにお礼を言い、会場を後にする。迷路のような朝のブスカランを、ズキズキと痛む左腕を感じつつ、歩く。トゥマさんは今日も何度も後ろを向き”Be careful”って言ってくれる。

道の曲がり角、プラスチック椅子に腰掛けた老女の額のThree dotsが目に入る。

柔らかな光のなか、にこりと微笑まれると泣いてしまいそうだった。

その朝の記憶は白昼夢、柔らかく覆われた記憶を思い返す。朝食の時間、硝子窓のない建物に、山の朝の光が差し込む。光と湯気のなかにいた。私たちの使ったお皿を黙々と洗うお母さんと、朝食のスクランブルエッグと干し魚の揚げ焼き作ってくれているトゥマさんの背中を眺める。二人の姿、その背中を何度も何度もシャッターを切るものだから、恥ずかしそうに笑ってた。

トゥマさんお手製の朝食。煮干しのような魚(Sap-sapかな)を油でカリカリになるまで揚げ焼き。卵はお塩で、優しい味付け。あとは炊き立てのブスカランライス。トゥマさんはお粥にし、魚と一緒に食べていた。

食後にブスカランコーヒーをいただき、私はこの村を後にすることに。お母さんにお手紙と、スーパーで買ってきたオレオを渡す。こんなに子どもたちがいるならもっと色々なおやつやお母さんのお土産を持ってこれたら良かった。お母さんがトゥマさんと一緒に目の前で読み上げ(恥ずかしいな笑)ぱーっと笑顔になったあの表情が忘れられない。4人の子どものいる、控えめな表情の可愛らしいお母さん。その笑顔、とても嬉しかったなぁ

手を振ってお別れ。また私の大きなザックを背負ってくれるトゥマさんの背中を追いかけ、村を後にする。

湿度が高く日差しも強い5月のブスカラン、村のエントランスに着く頃には二人とも大汗。ここで荷物を受け取り、トゥマさんともお別れのはずが荷物がまだ来てない…大丈夫かなとひやりとしたけれど、トランシーバーで伝えてもらうとものの2分くらいで送ってくれた。私のしばらく過ごしたフィリピン中部のIloilo cityに暮らすフィリピーナたちにはフィリピーナタイムというものがあって笑 スーパーのレジで30分待ちとか、Jollibeeで1時間待ちとか笑 もうとにかく何を丁寧にやってくれちゃっているのか分からないけど、時間がかかるのが通常運転。と、いうフィリピンで過ごして来たので、拍子抜けだった。笑 初めはそのフィリピーナタイムにはおーーーい?って思うこともあったけれど、フィリピーナの何の悪気のない表情を見ると、これが普通なんだなと気付かされ、次第になんかまぁいいかなって思えてくるから摩訶不思議。笑 その経験が、私自身すごく面白かったのでまた書こうと思う。けれど、ブスカランの村の人はチャキチャキとしていて、そのフィリピーナタイムがなかった気がする。

トゥマさんにお土産とお手紙を渡し、バイクに跨り手を振る。彼女にお願いできて本当にラッキーだったなぁとしみじみ幸せを感じつつ、また元来た道を戻る。左手にはまだ生傷のthree dots、バイクの少年はまだ10代に見える。他のバイクとすれ違おうとするとスピードを出すからひやっとした〜。笑 売店の前で停まるので、お礼を言い、150pesosを払う。その売店をのぞいてみるとBontoc行きの旅人達が待機していた。尋ねてみれば多分11:00に来るって。一見、掘建小屋のようなsari sari(フィリピンの便利屋さん)に見えたけれど、お店の奥は崖になっているのか、空が広くていい景色が見渡せる!バスが来るまで私ものんびりさせてもらおうと思い、お水とコーヒーを頼む。外は暑い。ふぅと一息、椅子に座った瞬間だった。ジプニ来たーー!!の雄叫び?!で、コーヒー代は募金ってことでお水だけ受け取りジプニーの荷台、荷台?!に飛び乗った。笑 この辺りは脳内のシナプスが物事を理解した時には既に私の身体が荷台に居たような気分だった。笑 一緒に乗ったフィリピーナに「初めてだ」って言ったら彼女も初めてだって。えー!あなた(フィリピーナ)も初めてなの?!と驚く。笑 すごい経験になっちゃった!格子状のポールの上に座るんだけれど、とにかくお尻の骨が痛い(以後全治4日間の骨痛)し、照りつける太陽はガシガシ痛いし、身動きは取りにくい!時々揺れると”OMG!!”とか”OUT!!!!”って悶える声が響く。笑 そんなお尻の痛みと、直射日光を除けば大っ絶景の90分。

私は、前の少女の風に靡く黒い髪が綺麗で見惚れてた。東洋風な顔立ち、きっとここの土着の部族の子だったのかもしれない。彼女は私が降りるたびにまるで幼い子のように私を支え、温かな目で見守ってくれた。涙 話しかけたりしてくるでもなく、でも気にかけてくれる。フィリピーナの女性って、何でこんなに柔らかいのかなぁ…癒しの気配を持っている。まるでぴたりと手に収まるマンゴーみたいな、自然な柔らさを纏う。そういった熱帯の風土、とても素敵だなと思った。

そんなことこの国に来るまで知らなかったから。気を抜くとすぐに情報過多、頭でっかちになりがちな自分。でも足を運び、肌が感じたこと、それが答えだ。いつも澄んでいるか、問い続けたい。