Cappadocia 4 オレンジ屋根のオルタヒサルへ

カッパドキア、ギョレメで過ごす最後の朝。今日は気球、飛びそうだ。流石に連日歩き通しで疲れているのに、まっさらな朝の冷たい空気と、気球が空を飛ぶ音が聞こえると意識がシャキッとし、どうしても見たい気持ちに駆られる。「こんなに体力あったんだっけ?」と、自分でも驚くほど、見たい、撮りたいに突き動かされていた。

柔らかなピンクとグレーの世界に包まれ、じっとその時を待つ。そして、岩の上に、赤い太陽が昇る。

海の先のどこかに、こんな朝が来る世界に今、生きているのだから。どんなことがあろうともこの世界や、人間の一生を、祝福していたい。

美しさにぼんやりしてしまう帰り道、この地を駆け抜ける透明な風や白い光に惹かれていた。まだここに居たい…と思った。あいにくサマーシーズン、ギョレメはなかなか連泊で取れるゲストハウスがない…色々調べ、そこから少し離れたオルタヒサルという村?へ移動することにした。今日の朝食もたっぷり。私の席にはオーストラリアのメルボルンから来ている女の子が座り、少し緊張したけれど、私の拙い英語にも全然気にするようなそぶりもなく、優しくてほっとした。とても笑顔の素敵な子だったな。彼女はこれからイズミールなど海よりの方へ行くみたい。地中海の夏、それも天国のような心地だろう…お互いの旅を想って声をかけ、ハグしてお別れをした。

(L)ピーマンに炒めたお米を詰めたドルマ(詰め物)が出てきた、美味しい (R)ゲストハウスにはこんなに大きなチャイポット、濃ーいチャイで目を醒ますのもこの国の常

でもやっぱり、旅先で、日本語で会話ができると心が緩む。ゲストハウスで出会った日本人の子と色々と情報交換。彼女は世界一周航空券を使い、色々なところに行ってきたみたい、やっぱりウユニ塩湖が良かったとも言っていた!南米!良いなぁ!すごいなぁ!と、私もわくわく。そしてこれから最後にイスタンブールからエジプトに寄って、日本へ帰るみたい。とっても刺激をもらった。自分自身、旅に出ることも大好きだし、誰かの旅の話を通して、世界の色々なことを知ったり、感じたり、考えたりすることも大好きだ。ほんのひとときの出会いだったけれど、世界のどこかで出会えるなんて、不思議。だからまた何処かでね、と、お別れをした。そして私は彼女から教えてもらったおばあちゃんの手芸のお店へ向かった。

(L)なんて綺麗なんだろう! (R)おばあちゃんの素敵なお店、なかなか決められなかった…

川沿いに並ぶ小さな屋台で、おばあちゃんの小さなお店が並んでいる。花嫁修行というような感じで、子どもの頃から編み物を習うみたい。全て、おばあちゃんの手作り。なんと、簡単な英語も使い、この国際観光地で自ら商うことのしなやかさと逞しさ。かっこいい。その配色もデザインも本当に素敵で、写真を沢山撮らせてもらい、私もお土産にピアスを購入した。小さな黒いビーズで編んだ存在感のある菱形のピアス。特別な時や、シンプルなワンピースなんかに合わせたいな。誰かの手が生み出したもの、この世にたったひとつ。このピアスを見る度に、そんな風に、旅のことを思い出すのかな。

おばあちゃんにお礼を言い、もうこの巌窟群からは離れてしまうし、思い残すことのないよう、再び歩きに行く。途中、キリムの絨毯のお店で絨毯を編む様子を見せてもらった。

圧倒的紋様世界、編むことで描かれてゆくって、どんな気分なんだろう。色々なキリムの絨毯を広げ、見えてくれる。ヴィンテージだという古いものは色も落ち着き、それでいて風合いがある。紋様それぞれには古くからの意味があるそうで、代々受け継ぐデザインは家々によっても異なるそう。また、織った女性の、その時々の気持ちが織り込まれているものだという。一人、黙々と家の中で、コンコンコンと編み続ける女性の喜びも悲しみも、その糸に折り合いをつけ生きてきたんだなと思うと、ものを通し、また誰かの人生の欠片を引き継いでゆくことの不思議さに、惹かれた。

流石にこのキリムを持っては歩けないので、丁重にお礼を言い、青空の下、ハイキング!周囲のホテル、デザインが可愛い。

ギョレメには沢山の人がいるけれど、少し外れたハイキングロードになると、途端に周囲には誰もいなくなる。こんなに広い道と、青い空。鳥の鳴き声に耳を澄ませ、花束のような道を一人、歩けるなんて贅沢。自然と時間の作り上げたこの不思議な大地を、じっと、目に焼き付けて。

思う存分歩き通した!気持ちも満たされ、バスに乗り、オルタヒサルへ。

そんな午後の一番暑い時刻、恐怖すら覚える日差しの下、重たいザックを背負いホテルまでの道を歩いていると、あまりにも、あまりにも暑い…道の先にはタイヤでできた雪だるまみたいな子が手をあげ微笑んでるのを目にするともう、気が抜けて、倒れそうだった。笑 あとちょっと、あとちょっとと、自分に言い聞かせながら着いたオルタヒサルの村は、オレンジ屋根の連なるヨーロッパの田舎のような雰囲気。自然の中に人が暮らす、こんな穏やかな村に、長い間ずっとずっと来てみたかったんだと、嬉しくて嬉しくて!疲れがみるみる癒された。

ホテルは、久しぶりに一人だけの部屋。小さいけれど天井が高く、真っ白で清潔な部屋で、レーズのカーテン越しに入る光が柔らかくて、見惚れる。テラスからはエルジェス山を望むことができ、本当に、そこいることが嬉しくて。近所のスーパーでお野菜を買い、早速チャウシン村の工房で購入したトルコ皿に適当に盛り付け、ゆっくりと夕食にした。しばらく歩き通しだったので、ここでは少し落ち着いて、過ごそうと思う。

その夜、突如山の稜線から大きな月が顔を出し、その強い光に、恐怖すら覚えた。そして、昔の人々がそんな月に、美しいやら怖いやら、畏む気持ちが少し、分かったような気がした。

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