朝、早くに目が覚めて顔を洗い歯を磨いて外に出る。起きれてよかった。日の出まであと15分くらい。すでに薄ら明るいが、外は寒い。ボゥーボゥーと気球が火を吹く音がするの聞きながら、急足で、丘の上へと上がった。すでに、たくさんの気球が大地の上をぷかぷか浮いている。か、かわいい!!!!その浮遊感、カッパドキアのメルヘンな朝だった。
世界中からやって来た人々が早朝からその丘の上に登り、気球の浮かぶ空に目を輝かせているような朝。気球はもちろんなのだけれど、気球が飛ぶ様子を眺める人々の、オレンジ色に光る表情を目にすると胸がいっぱいになった。
旅は、同一平面上に存在する様々な朝を知るということだ。こんな空が、人々を包んでくれるような朝があると知ることは、この先も私を生かしてくれるように思う。
太陽も昇り、気球が降ると丘にいた人々もそそくさと帰路に着くなか、なんだか私は感動でぼんやりとしていたが、しばらく経ち、お腹が空いていることに気づいてゲストハウスに戻る。昨晩スーパーで買ったケバブの味付けチキンがあったので、ラップロールに巻いて食べる。あとはヨーグルト。トルコは世界一のヨーグルト消費国らしく、スーパーにもずらりと長い乳製品コーナーがある。トルコヨーグルトは水分量の少ないもったりした食感のものらしい。私はあまり濃厚な乳製品系のものは得意でないので、緩めの水分量の多いタイプのを買った。お値段も500gで100円くらいだったかな。ターキーにとってきっとヨーグルトはほっとする味のひとつなのかなと、思った。
(L)適当にラップロールな朝食(R)休憩した岩場、奥に小さく聳えるのは岩の城・ウチヒサール城
朝食を食べ、その日は隣町のチャウシン村までハイキングしてみることに。ひとまずは昨日と同じ道、野外博物館まで歩き、昨日昼食にしたアプリコットの低木のある丘を横目に、さらに進む。本当に不思議な白い岩がいくつも聳え、モニュメントのようになっている。登りが続いていて1時間くらいでバテバテになってしまい岩陰で暫く休憩。二つの岩の真ん中にちょうど隙間があり、すこんと抜け、そのまま先が荒野になってい先には、岩でできたウチヒサール城が見える。あまりにも絶景で、このままずっとここにいても良いかも…などと一瞬よぎったけれど、そんなこと言ってないで!と、自分に声をかけ、また歩き出す。その頃にはガシガシと白く、強い太陽が空に登り、肌をジリジリと焼いていくのを感じる。
車道から折れ、ハイキングロードに入る。眼下には岩岩の突起が集結した谷、ここを降りて行くのか。「不思議すぎる」この言葉を既に何度呟いたか分からないほど、カッパドキアは目に見える全ての景色が不思議すぎる世界が広がっていた。降りて行くと谷には緑が生い茂る。谷間が風を遮るのか、谷に流れる水が流れるからなのか、今までいた大地の上とはまた異なる豊かな森が存在している。
歩いているとさくらんぼのような艶々の赤い実のなる木があり、いくらかもいでおやつにする。甘くて美味しい。谷を見上げると、窓のような穴や、鳩の小屋、教会を表すような装飾のある穴(多分教会)がある。はるか昔にも、岩で暮らす人々はこの谷に降りて、生っているこの赤い実をおやつに食べていたのかなと、思いを馳せていたりする。高い鳥の鳴き声が響き、自分の身体が空洞のガラス瓶になったような気分になったり、水が流れる周りには蝿が集まり、初めてカッパドキアにいて生命の気配を感じたりした。長い間、谷間の森の中の一本道を歩いていたけれど突如、大きく道が開けた。
そこは花の咲き乱れる天国のような場所だった。
生きてると、こんな美しい世界に自分が存在するということを知れるということなんだなと、知る。白い花畑にブランケットを敷き、花蜂がやって来たりするなかで、しばらく風に吹かれていた。
再び歩き始めた後に、長い砂道からの照り返しでバテていた曲がり角、木の下でターキッシュのファミリーが午後のお茶会をしていた。 ”Hello”とだけ挨拶すると、手招きされる。笑 どうしようかなと一瞬身を引いてしまったのだけれど、家庭の中に入り庶民の目でものを見たいと思っていた私には、チャンス!ということでお邪魔させてもらった。おばあちゃんのお手製のポレギは薄いクレープのような生地とカッテージチーズ、ほうれん草を重ね、焼いた食事系のミルクレープのようなもの。手作りのマーブルケーキも。あまーーいお菓子が多い国だけれど、お手製のケーキは素朴で優しい甘さ。家庭の中にある本来のトルコを知れて良かったなぁ、美味しかった。
手を振ってお別れした、嬉しさと緊張ですごくどきどきした。そういうの平気そうとよく言われるけれど、大体は嬉さに勝る緊張をどうにか笑って誤魔化し、必死に頭をフル回転させている。無理なくさらっと話しかけたり、溶け込んでゆくことのできる旅人が羨ましい。私には、いつもすごく勇気がいることだ…
道の途中、出会ったのは二組のハイカーと木陰で出会ったターキッシュの家族だけだった。圧倒的な大自然の中に一人、身を置いていると、自分が人間なのかもよく分からなくなる。
白い砂の道から石畳の道に変わると、周囲に家が見え始め、チャウシン村に着いた。そこは小さく子綺麗な村で、真ん中には、大きな岩の修道院が聳え立つ。少し、怖さを感じるほど。全身太陽の強い日差しをガンガンに浴びてすっかりからっからだったので、ドンドルマ(ドンドルマ運が無いくせに)屋さんで冷たい水を買うと、突然に日本語で声をかけられ、振り返るとターキッシュのおじさんだった。どうやら代々親族で窯元を守り続けているようで、ギャラリーにはその親族の作る様々な絵付け皿が置かれていた。食卓周りのものに目がない、鮮やかで大胆に絵付けされたお皿たちを目の前に、持って帰れるものを選ぶのは苦渋の決断だった…カレー皿と小さな青いカップを購入させてもらった。
おじさんは日本のお店ともやりとりがあり、日本が好きでしょっちゅう日本へ来ているみたい。どうやら普段チャウシン村に来るのは大体がツアーの方で、こんなふうに個人で、しかも女が一人のこのことやって来るのはかなり、稀なんだろう。笑 「ぜひツアーをさせてくれないか?」と申し出があり、悪い人ではなさそうなので、結局その修道院を紹介してもらった。なんの手すりもロープもネットもないその修道院、滑ったら一貫のおしまい。風に吹かれると時々足がすくんだりもしたけれど、オレンジ色一色の屋根が並ぶチャウシン村とその先に続く巌窟群や荒野を眺めれば、この世のものとは思えなかった。
修道院を降りて、ドンドルマ屋さんでアイスを頼んだ。ピスタチオとラズベリー、きらきらと銀色に光るアイスクーラーを開けてぐるぐると練りながらアイスを渡してくれるおじさんのきらきらな目に吸い込まれた。
ガイドを申し出てくれたおじさんがドンドルマまでご馳走してくれた上に、歩いてきた道を車で送り返してくれ、チャウシン村からギョレメまでたったの数分で着いてしまった。朝から山を登り谷を歩くのはあんなに長い道のりだったのに。へとへとに疲れていたのでとても助かった。おじさんは自分が日本に訪れた時に、沢山の日本人が優しくしてくれたから、自分も返したいと言っていた。誰かの優しさがぐるぐる回ってやって来た。いつも誰かの優しさに生かされているな…私も目の前の人に、優しくいれる自分でいたいな。
今日は素敵な洞窟ホテルに移動した。屋上のテラスから、歩いて来たローズバレーは夕陽に照らされ鮮やかに赤く染まる。空が、ピンク色からグレー、そして青く、黒くなってゆくのを眺めた。